『新撰21』を読む(中中編)
こんにちは。「『新撰21』を読む」の第3回をお送りします。今回の収録は今年の2月でした。そのつもりでお読みいただければと思います。
※
堂: こんにちは。
五: こんにちは。
堂: 『新撰21』の第三回です。
五: はい。今日は誰からでしたっけ。
堂: 誰からでしたっけ。なにしろ、半年以上たってますからね。
五: そうだね。ところで堂園くん、僕の『新撰21』を見てくれよ。
堂: え、なに? ふつうの『新撰21』じゃ……。おおっ。
五: ふっふっふ。
堂: サインが書いてある! しかも5人も!
五: いいでしょう。さる俳人の集まりでもらったんですよ。いずれは収録作家全員にもらいたいです。
堂: そっかー、すごいなー。
五: でしょうでしょう。そうでしょう。
堂: さて、ひととおり自慢を聞いたところで始めますか。今日は渋谷のジョナサンです。今回は北大路翼さんからです。
五: 好きな句は、
- 米の字の肛門に見ゆ秋祭
- 簡単に口説ける共同募金の子
- 男は手女は足を入れ炬燵
あたりですね。北大路さんは秋冬がいいと思った。
堂: 僕は春夏のほうが好きだったかな。
- 入学児花壇の石を裏返す
- 息かけて止めるカタツムリの進行
- 文系は海好き理系はプール好き
らへん。
五: へえ。くっきり分かれるものだなあ。「文系は」の句はぼくも印を付けました。しかし全体的に言うと、秋冬の印象が強かった。秋の句に
- 五人中四人が眼鏡そぞろ寒
というのがあって、この何となくそぞろ寒い感じが滑稽味を帯びた作風にうまくひびき合うと思いました。
堂: なるほどね。
五: ぼくの挙げた一句目や三句目など、何と言うか江戸時代みたいです。滑稽かつ洒脱で、非常に完成度が高い。
堂: わかりますね。載っている近影の印象や、語の押し出しの強さに対して、春夏の句を読んだとき、繊細なところに気づく人だなあ、と思った。それで、これらの句をとったのだけれど、背後にある洒脱な意識が繊細な発見を支えているのかもね。なんというか、繊細さが自己目的化しないというか。
五: うん。
堂: しかし、江戸時代って面白い言い方だね。
五: 洋画よりも浮世絵の手法に近いものを感じるんですよ。少ない描線で現実をデフォルメしていくあたりが。
- 男は手女は足を入れ炬燵
に顕著ですが、漫画チックというのとも少し違いますね。
堂: たしかに浮世絵っぽいですね。形式の得意不得意をよくわかっているのかもしれないね。
五: そうですね。挙がった句の他には、たとえば
- 遺言の録音をして柿一つ
ではもろもろの思いを周りから枯らしていって最後に柿一つに収斂させているんだけど、やはりタッチをできる限り単純にしていこうという美意識があるんだと思う。力業で一句みたいなものは少ない。
堂: あー、よくわかる。力業ないね、たしかに。
五: 力が抜けているんだよなあ。内容はやぶれかぶれなのもあるけど、言葉は全然そうじゃない。かなり計算された美意識が目につく。
堂: 今読み返していると、秋冬もよいですね。他に僕が好きだったのは、
- 風呂に湯をためてをり虫鳴いてをり
です。静かな感じが。あと、シンプルさというか。俳句の良さが出ている気がする。
五: うん。
堂: さっき細かく言わなかったけど、
- 息かけて止めるカタツムリの進行
も好きです。止めたあとまた歩き出すカタツムリの姿の時間の細かさ。
五: 堂園くんはこういう経験があるからね。僕はカタツムリは殻をむいて遊ぶものだったからなあ。
堂: 「もの」って。なにそれ。
五: いや、昔、子供のころに教えてもらったんですよ。小1のときに、近所の小6のお姉さんに。「こういうものだよ」って。
堂: え、すごい話ですね。
五: その人は小動物が好きでねえ。あと、椿の中にいる蛾の幼虫を手いっぱいに集めて愛でていたよ。
堂: 豊かな子供時代だなあ。
五: その椿はぜんぶうちの椿だったんだけど、ぜんぶ花をむしり取られてね……。
堂: えーっと、正直すごく興味あるけど、そろそろ次の人に行きましょうか。その話はまた今度ね。
五: はい。豊里友行さんですね。
堂: 僕がとるのは、
- 地球独楽春夏秋冬痩せ細る
- 夜のパンに鮫のかなしみをぬる
- 自転車の車輪がみがく冬の空
です。一句目、地球独楽ってあれですよね。ひもひっぱると、回転するおもちゃ。あれって、ずーっと回っているんですよね。それが、なにかこう一年が流れて、どこか消耗する感覚にかかるのかな。
五: 「痩せ細る」には現代への風刺がやっぱりあるのかなあ。
堂: そうかもしれない。二句目は、ちょっと難しいけれど、夜のパンにかなしみを塗るのは、感覚としてわかります。そこに「鮫の」。これはたぶん、鮫の孤独っぽいイメージとか、攻撃性ゆえのさみしさとか、顔のイメージとか、そういうものを混ぜていっている。
五: 鮫って、本当は群れで狩りをしたりもするんだけどね。まあ、孤独なイメージはありますよね。
堂: 三句目はさわやかな感じが好きでした。ただ、全体的にちょっと難しかったかなあという気がします。
五: ぼくが選んだのは、
- 轟音の鼠となり空齧るフェンス
- 捨石か要石かと蜥蜴鳴く
- 青蛙ニライカナイの地図をとぶ
です。「鼠」「蜥蜴」「青蛙」といった小型の動物に思い入れというか馴染みがあるんだと思います。ほかにもいろいろ出てくるよね。
堂: そういえばそうだなあ。
五: 沖縄をめぐる不条理を語るために人間ではない生き物が意図的に導入されているんだろうと思うんです。人間だとどうしても立場や思惑だけで読まれてしまうから、摂理みたいなものを語りにくいうらみがあるからかもしれません。もちろんそういう生き物に語らせること自体がひとつのギミックとも言えますが。
堂: そうですねえ。「沖縄」はとても難しいテーマですから、何らかの工夫は必要でしょうしね。
五: 二句目などは、「蜥蜴」が仙人みたいに石の上に乗って鳴いている絵柄が「捨石」「要石」の語からなんとなく想像されますね。といったところで、そろそろ次に。相子智恵さんに移りましょう。
堂: はい。僕のとったのは、
- 北斎漫画ぽろぽろ人のこぼるる秋
- 初雀来てをり君も来ればよし
- 木犀や漱石の句に子規の丸
です。
五: 「初雀」の句はぼくも好きです。「君も来ればよし」という感情の発露が自然なかたちで、もっと言えば「もののついで」になされているのが心地よいです。
堂: そうそう。素直、というのとは全然違うけれど、立ち姿がへんにねじれてないんですよね。全体的な人格はおおらかというよりもむしろ修辞派だと思うけど、ふいにふっと余白が生まれるというか、ユーモアが入る。解説の甲斐由起子さんも「諧謔味」と書いていたけど、そういうのがいいのかな。一句目、三句目にもそういったところがあると思います。
五: そうですね。わかりますよ。一句の中にちょっとした余裕があるんですね。
堂: はい。一句目、北斎漫画で人が細かく動いている様。あれってちっちゃい人が色んな動きをしててかわいいんですよね。ぽろぽろって。で、その楽しくさびしい感覚でしょうか。二句目は、五島さんが言いましたが、「来い」じゃなくて、「来ればよし」が心地よい。三句目、「漱石の句に子規の丸」。文豪、という大仰さと「丸」のギャップ。たぶん、漱石や子規も俳句を楽しんでたんだろうなあ、と体感レベルでわかる。好きな句です。
五: 余白とか余裕というところで思ったんだけど、それが生まれることの一端はやっぱり切れが担っているんじゃないかという気がする。
- 阿形の口出て銀漢や吽形へ
は好きな句ですが、散文的に言えば切れ字の「や」が「は」でも問題ないところです。でも広がりという点で言えば、やっぱり「や」の方が圧倒的にいいんですよね。
堂: たしかにね。
五: 全体的に言っても相子さんは「や」がとても多いですね。他に好きな句は、
- 煽ぐほど鮨飯照るや桃の花
- 雪掻の仕上げや軒の氷柱薙ぐ
- 掌を当てて茅の輪に熱のありにけり
あたりです。一句目、鮨飯が美味しそうに仕上がってくるにつれて心も華やいでいきます。そこに桃の花の明るさが置かれる。掛け値なしの快ですね。二句目、この「や」も散文では「に」であるところ。以前の私ならこの「や」は拒否したでしょうが、今は違います。
堂: へー。違うんですか。
五: 大人になったということです。三句目、この熱の正体は人々の「罪」であると言っているわけではないけれど、かすかにそう感じさせる。そのほのめかし方が渋くて好きです。
堂: はい。ではそろそろ相子さんはしめまして、ふー、次はどうしましょう。
五: うーん、今日はちょっと時間ないし、今回はここでしめましょうか。
堂: そうしましょうか。またやりましょう。五島さん、ここ半年はなにしていたんですか?
五: 秘湯めぐりですね。
堂: ほう。秘湯めぐり。他には?
五: 他には何もしていませんよ?
堂: はー、してないんですか。それでは、半年間も秘湯めぐりのみを。五島さんは何者ですか。秘湯ハンターなんですか。
五: そんなところです。大楠温泉はおすすめですよ。昔、横須賀にあったんですけどね。今はもう建物しか残っていない幻の秘湯です。部活の合宿なんかにも使ったんですよ。
堂: 結局何をしてたんでしょうね。まあいいや。お疲れ様です。
五: お疲れです。
堂: お疲れです。
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